樹冠の楽園
着生ランの空中楽園の謎
写真は赤道直下のボルネオ島の熱帯雨林。
樹高さ4,50m。
この樹冠エリアに着生ランの楽園が広がる。
この島は、モンスーン気候下で進化した植物の宝庫である。
当然、ラン科植物の宝庫である。
典型的な熱帯雨林。
人工衛生からの気象写真でも、島全体が写るものはほとんどない。
雲に覆われる場所が必ずあるからである。
だからこそ、この多湿条件下で着生ランは生きられる。
なぜ、空中にランの楽園が構築されているのか。
ここに生きるランは、地上を追われた新参者のである。
地上は、先達の熱帯植物が支配し、喬木は光の占領者であり、
新参者の小さなランが受け取ることが出来る光量は常に不足する。
樹冠なら・・・・。
ランは考えたに違いない。
環境に適応するものだけが生き残れる厳しい掟が存在する熱帯雨林。
ランの種子は羊歯植物、キノコの胞子のように空中に舞い飛ぶ。
新天地を拓くDNAを継承している。
樹冠に舞い上がるのは無造作に出来る。
ラン菌。
この菌の胞子。
ランの種子と同じように舞い跳ぶ。
空気は胞子に満ちている。
当然、喬木の樹冠にも枯れ落ち葉、コケなどの植物の死骸が堆積している。
材木腐朽菌はこれを見逃すはずはない。
樹冠の着生ランの楽園は、それより先に材木腐朽菌の支配するエリアであった!
ラン愛好者は、ランが主役と思っているが、勘違いである。
森林を形成する生き物の中で、最も新参者で、弱い負け組みの植物である。
樹冠の着生ランの楽園は、実は地上を追われた果てに作ったコロニーである。
楽園どころか、樹にしがみついて生きている姿である。
けなげ・・・ですらある。
必死で生きている姿は、高山植物と共通するもの。
樹冠には豊富な養分はない。
しかし、僅かではあるが、先達の材木腐朽菌が行う炭素循環が構築されている。
この養分、糖が命の綱である。
毎日降るスコールの尿素が命の綱である。
小さな身体を深い霧の湿度が守ってくれる。
炭素循環の養分が限られているから、身体を大きく出来ない。
強風も大敵である。
そのためには根の強力な接着剤ペクチンを具備しなければならなかった。
根にもラン菌を飼わなければならない。
時には、ラン菌の菌糸も食べなければならない。
幸いなことに、ラン菌の菌糸は、十分な温度と、充分な湿度、尿素で、
毎日伸びてくれる。
材木腐朽、ラン菌の菌糸は、豊富な養分の塊である。
この範囲でつつましく生活するのであれば生きられる。
子孫も残せる。
樹冠に広がる着生ランの楽園は、人間の勝手な思い込みである。
実は、楽園ではない。
エネルギー消費を極度に抑制した炭素循環生活が繰り広げられている空間である。
地上4,50mの樹冠にも、材木腐朽菌の炭素循環が構築されている。
着生ランが、空気が好きだから、乾燥が好きだから、樹上で生きているのではない。
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